このサイクリックボルタンメトリー(CV)の形状は、超極小電極(ウルトラマイクロ電極)特有のものです。超極小電極とは、非常に小さいために拡散領域が線形から放射状に変化する電極を指します。このタイプの電極は感度が高く、センサー用途でよく用いられます。
リニアスイープボルタンメトリーおよびサイクリックボルタンメトリーの理解を深める
2025/05/12
記事
リニアスイープボルタンメトリー(LSV)とサイクリックボルタンメトリー(CV)は、最も一般的に用いられている電気化学的手法であり、世界中のラボでさまざまな用途に活用されています。これらの手法が広く採用されている理由は、「操作の簡便さ」、「応用の柔軟性」、そして「測定後のデータ解析が比較的容易であること」が挙げられます。本コラムでは、LSVおよびCVの基本原理と測定時に注意すべきパラメーター、測定結果に影響を与える外的要因について解説し、最後に代表的な応用例をご紹介します。
リニアスイープボルタンメトリー と サイクリックボルタンメトリー
一般的に、電気化学的手法はステップ法とスイープ法の二つに大別されます。リニアスイープボルタンメトリー(LSV)およびサイクリックボルタンメトリー(CV)は、いずれもスイープ法に分類され、通常は三電極系において測定が行われます。
この測定系についてさらに詳しく知りたい方は、アプリケーションノートをご参照ください。
Basic overview of the working principle of a potentiostat/galvanostat (PGSTAT) – electrochemical cell setup
作用電極(WE:Working Electrode)の電位は、参照電極(RE:Reference Electrode)に対して一定の範囲内で「スイープ」または「スキャン」(非常に小さな離散的なステップで変化)され、その間に作用電極と対極(CE:Counter Electrode)間を流れる電流が測定されます。
リニアスイープボルタンメトリー
以下の例は、スイープ法(掃引法)の最も一般的な用途の一つを示しています。酸化還元プローブを溶液中に浸すと、電位スイープ(掃引)は反応がほとんど起こらない領域から開始されます。その後、反応速度に制限される領域(反応論制御領域)を経て、拡散によって制限される領域(拡散制限領域)へと進行します。これは、リニアスイープボルタンメトリーを適用する際に通常見られる挙動です。
図 1a は、典型的なリニアスイープボルタンメトリー(LSV)プロットにおける電位(E)と時間(T)の関係を示しています。図 1b は、電流(I)と電位(E)の関係を示したプロットです。このプロットは、通常、リニアスイープボルタンメトリー(LSV)測定の後に解析されます。
ユーザーは、スイープ(掃引)を開始する電圧と終了する電圧、さらにそれらの電圧間をどの速度でスイープ(掃引)するか(すなわちスキャンレート(掃引速度))を選択することができます。スキャンレート(掃引速度)は、得られるボルタモグラムに大きな影響を与える可能性があります。スキャンレート(掃引速度)を変化させることで、後述するように重要な情報が得られる場合があります。
電圧をスキャン(掃引)できる有効な範囲は、ハードウェアやソフトウェアの制約、さらには実験条件など、複数の要因によって決まります。使用する電極や電解質の種類によって、「電位窓(電気化学窓:electrochemical windows)」の広さは異なります。この電位窓とは、作用電極、溶媒および指示電解質の組み合わせにおいて、目的とする反応に対してその電極、溶媒および指示電解質の反応による妨害が無視できる電位範囲のことです。
サイクリックボルタンメトリー
サイクリックボルタンメトリー(CV)の場合、リニアスイープボルタンメトリー(LSV)との主な違いは、測定前半で作用電極(WE)に印加される電位が、最終電位(Stop E)ではない点にあります。
この電位は、スイープ(掃引)の方向を反転させる点であり、通常「スイッチング電位」または「第1頂点電位(first vertex potential)」と呼ばれます。
この頂点電位の時点で、電位は単に開始電位まで戻るか、あるいは開始電位からさらに離れた第2頂点電位までスイープ(掃引)されます。この第2頂点において、再びスイープ(掃引)の方向が反転し、電位は開始電位へと戻ります。CV(サイクリックボルタンメトリー)でもLSVと同様に、ユーザーは開始電位、終了電位、第1および第2頂点電位、そしてスキャンレート(掃引速度)を任意に設定することができます。
サイクリックボルタンメトリー(CV)のデータを示す方法は、2通りあります。推奨されているIUPACの定義では、正のスキャン(掃引)方向および正の電流を酸化(または陽極走査/陽極枝)として扱い、負のスキャン(掃引)方向および負の電流を還元(または陰極走査/陰極枝)として表記します。
このように電位をスイープ(掃引)することで、ユーザーは前方向(本例では酸化)および逆方向(還元)が制御された方法で測定することができ、反応機構を迅速に理解する手がかりを得ることが可能となります。
この2つの手法のうち、サイクリックボルタンメトリー(CV)は、より一般的な用途や、特に新領域の研究において広く用いられるようになりました。これは、逆方向のスキャンに多くの興味深い情報が含まれているためです。
データ分析
サイクリックボルタモグラム(電流(I)vs 電位(E)のプロット)は、定性的に評価することが可能です。CVは非常に感度の高い手法であり、基本的に同じ電位 vs 時間(E vs T)の信号を異なる系に適用すると、大きく異なる結果が得られます。図3はそのような結果の一例を示しています。ピークの数、形状や大きさ、連結したピーク間の分離、そして逆方向のスキャン(掃引)における応答はいずれも、研究対象の系について結論を導くための情報を含んでいます。
図3を簡潔にご説明いたしますと:
2組のピークペア、すなわち2つの酸化還元対が存在することは、このサンプルが一度だけでなく、2回可逆的に酸化され得ることを示しています。したがって、2電子を関与させる触媒反応やレドックスシャトル(電子伝達体)の候補の探索方法として有望です。また、2つの酸化還元の間の分離は、それぞれの酸化状態の相対エネルギーを算出するために利用できます。
これはやや複雑なグラフとなっております。サイクリックボルタンメトリー(CV)では、陽極ピークのように複数の連続反応が重なった広いピークや、より狭いピーク、さらに可逆反応と不可逆反応の特徴を組み合わせて観察することが可能です。
ファラデー反応(酸化還元反応)が起こらず、容量性電流のみが観測される場合、これはスーパーキャパシタ(電気二重層コンデンサ)の材料に適している可能性が高いと思われます。
サイクリックボルタンメトリー(CV)における特定の酸化還元反応の可逆性は重要な概念です。可逆性とは、ある物質が酸化(または還元)された場合に、それを還元(または酸化)して元の物質に戻すことがどれほど容易であるかを指します。例えば、充電式電池やキャパシタの新材料を研究する際には、反応が可能な限り100%に近い可逆性を持つことが重要です。電池における副反応は、機能不全や故障の原因となることがあります。
CVによって、研究者はさまざまな酸化還元プロセスを3つのカテゴリーに大別することができます:
- 不可逆的
- 可逆的
- 準可逆的
スキャンレート(掃引速度)は、反応の分類において重要な役割を果たします。不可逆的および可逆的な反応は比較的識別しやすいのに対し、準可逆的な反応は識別がやや難しくなります。
不可逆的なプロセスでは、前方向のスキャン(掃引)で見られる特徴的なピークが、逆方向のスキャン(掃引)では消失したり、0.5 V未満の大きな電位シフトを伴って現れたりすることがあります。また、ピークの高さも大きく異なる場合があります。スキャンレート(掃引速度)が高くなると、ピーク電位はより高い電位方向へシフトします。
可逆的なプロセスでは、これとは逆の挙動が見られます。前方向および逆方向のスキャンにおいて、常に同じ特徴(ピーク)が観測され、ピーク電流の比は1に近づきます。また、スキャンレートを高くしてもピーク電位のシフトは生じません。陽極ピークと陰極ピークの電位差は、理論的に 57/n mV(nは電子移動に関与する電子数)となります。
準可逆的プロセスの条件は、可逆および不可逆という2つの極端なケースの中間に位置するため、やや定義が難しくなります。準可逆的なプロセスでは、前方向および逆方向のスキャン(掃引)において類似した特徴が観測されますが、ピーク間の電位差やピーク電位はスキャンレート(掃引速度)に依存します。このような可逆性の判定には、スキャンレート(掃引速度)を変化させてCV測定を繰り返し行う方法が用いられます。スキャンレート(掃引速度)を速くすると、拡散に要する時間が短くなるため、ピーク電流は大きくなります。
この測定からは、Randles–Ševčík equation(Randles-Sevcik )式に基づく関係を用いて、拡散係数を求めることも可能です。拡散係数は、ある種(化学種)が電極に向かってどれだけ速く拡散するかを示す指標であり、測定される電流に影響を与えます。可逆的なプロセスにおいては、測定されたピーク電流はスキャンレート(掃引速度)の平方に対して線形に増加することが知られています。図4は、ピーク電流とスキャンレート(掃引速度)の平方(2乗したもの)との関係を示したプロットです。
物理的な要因(例えば、pH、温度、溶媒の影響など)も、反応が可逆的かどうかを判断する上で重要な役割を果たします。したがって、スキャンレート(掃引速度)に加えて、これらのパラメーターも意図的に調整することで、特定の反応の理解を深めることが可能となります。
結論
サイクリックボルタンメトリー(CV)およびリニアスイープボルタンメトリー(LSV)は、電気化学において最も強力で汎用性の高い評価・分析手法のひとつです。その優れた汎用性と使いやすさから、日常的に幅広く利用されています。CVおよびLSVに関する詳細情報は、以下のお役立ち情報をご参照ください。
お役立ち情報
Blog post: Cyclic voltammetry (CV) – the essential analytical technique for catalyst research
Application Note: Revealing battery secrets with EC-Raman solutions
How to characterize a catalyst? Cyclic voltammetry in action

This White Paper covers the following content: Measuring the surface area of the electrode, evaluation of the activity and stability of the catalyst, and a case study and handy glossary.