世界保健機関(WHO)のガイドラインでは、成人のナトリウムの1日あたりの最大摂取量を2g(食塩相当量で5g)と推奨しています。ナトリウムの過剰摂取は、高血圧(高血圧症)発症のリスクを高めるため、健康に悪影響を及ぼす可能性があります。高血圧は心血管疾患の主要な危険因子の一つであり、したがってナトリウム摂取量の増加は間接的にこれらのリスクを高めることになります。
食品中のナトリウムは主に塩化ナトリウム(食塩)の形で存在しており、それに応じた測定が必要です。イオン選択性電極(ISE)は、食品中のナトリウムを正確かつ選択的、かつ迅速に測定する手法です。クロマトグラフィーや分光法と比較して、ISEはコスト効率が高く、省スペースで使用が容易です。本アプリケーションノートでは、分離型ナトリウム選択性電極(Na-ISE)を用いて、食塩、ポテトチップス、ベビーフォーミュラ(粉ミルク)などの異なるマトリックスにおけるナトリウム分析について説明します。
直接測定法と標準添加法の両方を実証しています。本法は標準的なAOAC 976.25法に基づいています。
本アプリケーションでは、ナトリウムイオン選択性電極(Na-ISE)を使用しています。電極のイオン選択性ポリマ膜は、ポリ塩化ビニル(PVC)、可塑剤、および添加剤を含むイオノフォアから構成されています。PVC膜の調整(コンディショニング)は不要であり、ポリマー膜はすぐに使用可能です。ポリマー膜内のイオノフォアが選択性の要因であり、Na⁺イオンを選択的に捕捉する役割を果たしています。
直接測定法は、問題のないサンプルや低濃度(mg/Lまたはµg/L範囲)のナトリウム測定に推奨されます。サンプル中のイオン活量は、検量線から内挿して求めます。検量線は標準溶液を用いて作成してください。サンプルの予想されるイオン活量は、標準溶液の濃度範囲の中央付近に位置することが望ましいです。
標準添加法(STDADD)は、不明成分を含む複雑なサンプルマトリックスに対して推奨されます。標準添加法では、対象イオンの既知量を既知のサンプル量に数段階に分けて添加します。サンプルと標準溶液を添加したサンプル間の電位差から未知濃度を算出します。この計算は、最新のイオンメーターやOMNISなどのソフトウェアによって自動的に行われます。
測定は食塩(NaCl)、ポテトチップス、およびベビーフード(粉ミルク)を対象に実施しました。
すべてのサンプルについて、適量のサンプルを純水に溶解させ、事前にサンプル溶液を調製しました。
測定は、分離型ナトリウムイオン選択性電極 (Na-ISE) を搭載したOMNIS Advanced 滴定装置 およびOMNIS ドージングモジュール を用いて実施します(図1)。
適切な量のサンプルに対して、CaCl₂濃度1 mol/Lのイオン強度調整剤(ISA)溶液を自動的に添加して電位を測定するか、あるいはナトリウム標準溶液(Na⁺濃度2000 mg/L)を用いて標準添加法を実施します。
直接測定法および標準添加法のいずれにおいても、異なるナトリウム濃度に対して正確かつ再現性の高い結果が得られており、表1 および表2に示すように変動係数(SD(rel))は2.0%未満です。
直接測定におけるキャリブレーションは図2に、標準添加法の一例は図3に示します。
| サンプル (n = 6) | 平均値 % | 標準偏差 % SD(abs) |
変動係数 % SD(rel) |
|---|---|---|---|
| 食卓塩 | 39.34 | 0.00 | 0.0 |
| サンプル (n = 6) | 平均値 | 標準偏差 SD(abs) |
変動係数 SD(rel) in % |
|---|---|---|---|
| ポテトチップス | 3912 mg/kg | 42.6 mg/kg | 1.1 |
| ベビーフード | 2606 mg/kg | 3.58 mg/kg | 0.1 |
ナトリウムイオン選択性電極 (Na-ISE) を用いることで、食品中のナトリウム含有量を迅速かつ再現性高く、正確に測定することができます。
ナトリウムイオン選択性電極 (Na-ISE) の取り扱いは容易です。電極の調整は不要であり、すぐに使用可能です。さらに、本手法はAOAC 976.25に準拠しています。
本アプリケーションノートで紹介するシステムは、高度なソフトウェアと柔軟性を兼ね備えており、ユーザーに利便性を提供します。分離型ポリマーNa-ISEの測定範囲は5 × 10⁻⁶ mol/Lから1 mol/LのNa⁺(約0.11 mg/LのNa⁺に相当)であり、ファストフードや減塩食塩のような食品から医薬品や化粧品まで、幅広い種類のサンプルに適しています。
メトロームは、食品中のナトリウム含有量を自信を持って測定できるよう支援します。OMNISは測定の精度と速度を向上させるだけでなく、他の既存の滴定システムと同等かそれ以上の結果を提供します。