AN-R-035
2025-04
PEG法による香辛料および調味料の酸化安定性評価
ポリエチレングリコール(PEG)を担持材料として使用することで、サンプルの前処理を行うことなく、迅速かつ信頼性の高い酸化安定性評価のためのランシマット測定が可能です。
概要
ハーブ、香辛料、スパイスブレンド、風味増強剤、その他の調味料は、現代の料理において欠かせない存在です。葉、花、樹皮、種子、根、果実、樹液など、さまざまな植物の部位が使われており、これらには香味成分や芳香化合物、さらには精油が含まれています。香辛料には抗酸化物質が豊富に含まれていることから、食品、飲料、スパイスミックスの保存にも利用されています。これがいわゆる香辛料の抗酸化活性と呼ばれる性質です。
しかし、香辛料の加工(特に乾燥や保管)によって、時間の経過とともに総抗酸化物質の含有量は減少し、品質の低下を招く可能性があります。そのため、香辛料中の抗酸化化合物を品質指標として定期的にモニタリング・分析を行うことが重要となります。
" 892 プロフェッショナルランシマット" は、AOCS Cd 12b-92 および ISO 6886 に準拠した PEG 法により、生鮮および乾燥ハーブ、香辛料、調味料の酸化安定性を簡便かつ安全に測定できる分析システムです。
説明
ランシマット法による酸化安定性測定において、PEG(ポリエチレングリコール)法は直接測定を除き、最も効果的な分析手法であることが証明されています。特に複雑なマトリックスを持つ製品や、脂肪分が少ない、または水分が多い試料、さらに時間のかかる試料前処理を避けたい場合に適しています。
PEG法はサンプルの前処理を必要としないため、マトリックスを含むサンプル全体を分析します。多くの香辛料や調味料は、高抗酸化物質を含んでいるか、最終製品での使用に応じて安定剤が添加されていることがあるため、PEG法を用いてサンプルの抗酸化物質含有量および抗酸化能力を評価することが可能です。
サンプルと前処理
挽いた黒胡椒および白胡椒、スライスしたローズマリー、挽いたキャラウェイ、顆粒状ガーリック、カレーパウダー、ならびに塩とグルタミン酸を含む一般的な調味料(粉末)の分析例を表1に示します。
サンプルの前処理は不要です。
測定
測定は、"892 プロフェッショナルランシマット"(図 1)を用いて行います。
適量のサンプルをPEGを反応容器に秤量しランシマット測定を開始します。
ランシマット法では、サンプルは100〜180℃の一定温度下でキャリアガス(清浄空気)にさらされます。揮発性の高い二次酸化生成物は、キャリアガス(清浄空気)とともに測定容器へ導きられ、そこで測定液に吸収されます。
測定液の導電率は連続的に記録されます。二次酸化生成物の生成により導電率が上昇し、この顕著な導電率の上昇が始まるまでの時間を「誘導時間」と呼びます。この誘導時間は酸化安定性を示す良好な指標となります(図2および図3参照)。
測定結果
表 1. 各種香辛料および調味料の酸化安定性について、120 °Cにおける892 プロフェッショナルランシマットによる測定結果の概要
サンプル (n = 4) | 誘導時間(平均) h | SD(abs) [ h] 標準偏差 |
SD(rel) [ %] 相対標準偏差 |
黒胡椒 (粉砕物) | 2.92 | 0.18 | 6.0 |
白胡椒 (粉砕物) | 1.45 | 0.03 | 2.1 |
ローズマリー (スライス) | 8.70 | 0.75 | 8.6 |
キャラウェイ (粉砕物) | 1.87 | 0.13 | 7.1 |
ガーリック (顆粒状) | 0.47 | 0.01 | 2.0 |
カレー (粉末) | 1.97 | 0.03 | 1.4 |
調味料 (粉末) | 0.66 | 0.02 | 3.2 |
結論
PEG法により、香辛料および調味料の酸化安定性を再現性よく、かつ高精度に測定することが可能です。サンプルの前処理が不要であるため、個々の成分だけでなく、試料全体のマトリックスが酸化安定性に与える影響を直接評価できます。そのため、ランシマットとPEG法を組み合わせた測定は、抗酸化能の評価に非常に適した手法です。
測定結果から、抗酸化物質の含有量に応じて香辛料ごとに明確な違いが見られることがわかります。黒胡椒の誘導時間は白胡椒のおよそ2倍となっており、本テストで分析したサンプルの中では、ローズマリーが最も長い誘導時間を示しました。
892 プロフェッショナルランシマットを用いることで、この品質指標を一度に最大8サンプルまで同時に簡便に測定することができ、品質管理ラボの処理能力を向上させます。これは、2つの加熱ブロックにそれぞれ4つずつ、合計8つの測定ポジションが備えられているためです。内蔵ディスプレイには装置全体の状態および各測定ポジションの進行状況が表示されます。さらに、各測定ポジションごとに設けられたスタートボタンにより、測定を個別に開始することが可能です。
使い捨てタイプの反応容器や食洗機対応の付属品を使用することで、洗浄作業を最小限に抑えることができます。これにより、時間とコストを節約できるだけでなく、測定の精度および再現性も大幅に向上します。