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電気めっきの主な目的は、ワークピースの表面を改質し、物理的特性を付与することにあります。この目的のために、有機化合物や錯化剤などの浴添加剤が、処理負荷に応じて定期的にさまざまな量で添加されます。ワークピースの投入により浴の組成は常に変化するため、最終製品の品質を高水準に保つには、浴添加剤の濃度を継続的かつ厳密にモニタリングすることが不可欠です。

本プロセスアプリケーションノートでは、メトローム プロセス アナリティクスの2060ラマンアナライザーを用いて、電気めっき浴液中の錯化剤をインラインで高精度に分析する手法をご紹介します。これにより、浴組成のリアルタイム制御が可能となり、生産効率および製品品質の向上が実現します。

電気めっきプロセスとは、電気を用いてある材料(例:銅(Cu))の表面に、別の材料(例:ニッケル(Ni)や亜鉛(Zn))の薄膜を形成する処理を指します。これは一般的に、材料の保護を目的として行われます。

亜鉛およびその合金(例:Zn/Ni)は、鋼の腐食防止に広く使用されている主要な材料の一つです。中でもZn-Ni合金は、腐食に対して高い耐性を有しており、純亜鉛に比べて5~6倍の耐食性を示すことから、主に使用されています[1]。

めっき液中には、有機添加剤や錯化剤が添加され、成膜プロセスの改善およびそれに伴う耐食性の向上を図ります[2]。

電気めっきプロセスにおいては、錯化剤が電解めっき溶液中の金属イオンと錯体を形成するために使用されます。これらの錯体は、金属イオンを溶液中に安定に保ち、早期の沈殿や不要な副反応を防ぐ役割を果たします。たとえば、アミン類はアルカリ性のZn/Ni浴において錯化剤として機能し、Zn²⁺やNi²⁺と安定な錯体を形成することで、これらの金属イオンが他のイオンと反応するのを防ぎます。これにより、析出電位の制御、導電性の向上、およびデンドライト(樹枝状結晶)の形成抑制が可能となります[3]。

従来、電気めっき浴中の錯化剤濃度のモニタリングは手作業で行われてきました。この方法は煩雑であり、めっき浴からサンプルを採取してから分析のためにラボへ運ぶ必要があります。

これらの方法は、めっき浴のリアルタイム組な成を把握できないだけでなく、安全面でのリスクも伴います。サンプル採取から分析までの遅延により、分析完了前に電気めっきプロセスの変化が生じる可能性があり、その結果、偏ったデータとなる恐れがあります。

インラインラマン分光法の活用により、錯化剤を含む無機成分および有機成分をリアルタイムで連続的に分析することが可能となり、これらの課題を解決します。従来の湿式化学分析法とは異なり、分光法はサンプルの前処理を必要とせず、電気めっきプロセスにシームレスに統合できます。これにより、浴の状態を分単位で把握でき、析出電位、導電率、およびデンドライト形成のより精密な制御が実現します。この技術は、効率の向上だけでなく、電気めっき作業の安全性と信頼性の向上にも寄与します。

インラインプロセスアナライザーは、ファイバーオプティクスとフローセルを介して電気めっき浴に接続することができます(図1を参照)。マルチプレクシング機能(複数のめっき浴を交互に測定可能)を活用するために、サンプルラインの充填およびその後の洗浄を確実に行うバルブが作動します。液体の取り扱いを含む全工程は完全に自動化されて実施されます。

メトローム プロセス アナリティクスは、電気めっき浴のモニタリングに適した分析ソリューションとして、ラマンプロセスアナライザーを提供しています。2060ラマンアナライザー図2)は、アルカリ性Zn/Niめっき浴液中の錯化剤(アミン類)を迅速かつ試薬不要、非破壊で分析することが可能です。

図 1. 典型的なウェットベンチの設置例を示した図であり、プロセスラマン分光法を用いて電気めっき浴の組成を連続インラインでモニタリングするための、3つの異なる接続方法(A〜C)を示しています。
図 2. 2060ラマンアナライザーは、電気めっき浴液中の錯化剤を定量的にインライン分析するのに最適な装置です。

日常運用時の自動分析のために、アプリケーションは事前にメトローム プロセス アナリティクスにより開発されます。その際、2060ラマンアナライザー(図2)を用いてスペクトルが取得されます。取得したスペクトルは、参照分析法のデータと相関付けられ、堅牢なキャリブレーションモデルが作成されます。

キャリブレーションモデルはプロセス内で自動的に使用されます。ユーザーは濃度測定結果を表形式およびプロセストレンドチャート(図3)として受け取ることができます。これらの値は、プロセス通信インターフェースを通じてプロセス制御システムへ転送することが可能です。

表1.2060ラマンアナライザーによって電気めっき浴液中で測定される分析項目

分析項目 濃度 [g/L]
有機添加剤(電解質) 0−100 ± 0.5
図 3. 有機添加剤の測定のために2060ラマンアナライザーで実施されたインラインラマン測定のトレンドチャート

図3のトレンドチャートは、電気めっき浴液中の有機添加剤に関するインラインラマン分析の測定結果と、手作業で行われる参照分析との比較を示しています。インライン分析はプロセスの変化をより正確に捉えることができるため、めっき作業者は浴の組成をより迅速に調整でき、コスト削減に繋がります。

正確なラマンモデルを構築するためには、依然として参照法を使用する必要があります。プロセスの変動範囲を網羅した適切なサンプル群を、参照法(一次基準法)とラマン法の両方で分析することが求められます。

相関関係はプロセス仕様に基づいて作成されます。適切なラマンプローブは、プローブ先端の窓と十分なサンプル接触が得られるように、現場に設置されなければなりません。正しいプローブ設計とプロセス装置への適切な配置が非常に重要です。

マン分光法は、液体および固体を数秒で同定できる使いやすい分析技術です。メトローム プロセス アナリティクスの2060ラマンアナライザーは、電気めっきなどのさまざまなプロセスのモニタリングに適した高性能ラマンシステムです。

  • めっき膜の高い制御レベルを保証するためのめっきプロセスへの「リアルタイム」フィードバック
  • めっき浴の不具合を早期に検出
  • 一度の測定で複数の分析項目を実施
  • 物質の同定に特有の指紋として機能する独自のラマンスペクトル
  1. Leiden, A.; Kölle, S.; Thiede, S.; et al. Model-Based Analysis, Control and Dosing of Electroplating Electrolytes. Int. J. Adv. Manuf. Technol. 2020, 111 (5), 1751–1766. https://doi.org/10.1007/s00170-020-06190-0.
  2. Gezerman, A. O. Effects of Novel Additives for Zinc-Nickel Alloy Plating. Eur. J. Chem. 2019, 10, 118–124. https://doi.org/10.5155/eurjchem.10.2.118-124.1834.
  3. Son, B.-K.; Choi, J.-W.; Jeon, S.-B.; et al. Concentration Influence of Complexing Agent on Electrodeposited Zn-Ni Alloy. Appl. Sci. 2023, 13 (13), 7887. https://doi.org/10.3390/app13137887.
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