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AN-EC-035

2025-01

電気化学測定用バイオセンサーを使用して簡単にできるビールの発酵モニタリング

In-situ measurements of lactic acid in beer using screen-printed electrodes (SPEs)


概要

乳酸(2-ヒドロキシプロパン酸)は主に酸味のある乳製品に含まれています。ビールでは、乳酸の存在が酸味や乳酸系の香りに寄与し、通常は乳酸菌による発酵の結果として現れます。これらの菌は意図的に麦汁に導入される場合もありますが、感染の結果として出現することもあります。

乳酸は一定量までの範囲ではビールにとって重要ですが、過剰になると欠陥とみなされます。乳酸の感知閾値は0.0044 mol/Lです。しかし、ランビックタイプのビールでは、乳酸濃度が0.0333 mol/Lを超える場合もあります。

この技術資料では、スクリーンプリント電極を用いた酵素センサーを使用して、市販ビール中の乳酸を測定しました。これは、発酵モニタリング中におけるその応用可能性を検証するための概念実証として行われたものです。


装置紹介


装置とソフトウェア

DRP-DROPSTAT-PLUS, DropStat Plus
図1. DROPSTATPLUS装置とCASTDIRは、スクリーンプリント電極を接続するために使用されます。

測定は、スクリーンプリント電極用のDROPSTATPLUSおよびCASTDIRコネクタを使用して行いました(図1)。

生体認識基板として、選択性に優れるL-乳酸オキシダーゼをベースにしたスクリーンプリント電極(LACT10)を使用しました。分析信号は、酵素反応中に乳酸がピルビン酸に変換される際に生成される過酸化水素中間体の検出に対応しています。この副生成物は、作動電極上での酵素反応によって生じます。

DROPSTATPLUSは、各ユーザーの特定のニーズに応じて構成された、カスタムのポテンシオスタットベースの電気化学リーダーです。電気化学的手法やそのパラメータ、さらには校正曲線を指定することで、1台の機器で電気化学センサーが開発された分析対象物の濃度をLCD画面に直接自動表示することが可能です。本研究で使用されたすべてのハードウェアは表1にまとめられています。

表1. ハードウェアおよびソフトウェア機器の概要
装置 製品番号
Instrument DROPSTATPLUS
Biosensor SPE LACT10
Connection for SPEs CASTDIR

乳酸の測定

A typical calibration curve obtained with standard  solutions of lactate between 0–0.0004 mol/L in an aqueous  solution of 0.1 mol/L Tris-nitrate (pH 7.2) using LACT10  electrodes. Measuring time was 75 s.
図2. LACT10電極を使用し、0.1 mol/L Tris-硝酸塩水溶液(pH 7.2)中で0~0.0004 mol/Lの乳酸塩標準溶液を用いて得られた典型的な校正曲線です。測定時間は75秒でした。

今回は分析手法としてアンペロメトリ検出が選択しています。-0.1 Vの電位を印加することで、電流信号が定常状態に達するまでの75秒以内に乳酸を測定することが可能です。この特に低い電位を使用できるのはメディエーターの存在によるもので、高い電位を適用した際に現れる典型的な干渉信号を克服する上で重要です [1]。

LACT10スクリーンプリント電極に試料を一滴セットするだけで、0~0.0004 mol/Lの範囲で乳酸を測定できます。三重測定データから得られた典型的な校正曲線が図2に示されています。結果は、pH 7.2で乳酸が解離した形態、すなわち乳酸ではなく乳酸イオンとして存在する0.1 mol/LのTris-NO3水溶液で得られました。


市販ビールに含まれる乳酸の測定

Data comparison obtained with the electrochemical lactate sensor from Metrohm DropSens and with an optical L-Lactate Assay kit.
図3. 図3に示されているデータは、Metrohm DropSensの電気化学乳酸センサー(緑色)と光学的L-乳酸アッセイキット(灰色)で得られた結果の比較です。

地元の醸造所(Cotoya)の4種類のビールを選択し、LACT10センサーを用いて実試料での測定を行いました。これには、乳酸含有量が通常レベルとされるインディアペールエール(IPA)、ビールを酸性化するために特別に処理された酸性麦芽を使用したサワービール、高アルコール度数のバーレーワインビール、そして野生発酵プロセスを経て得られたランビックビール(Al Debalu)が含まれます。

マトリックス効果を回避するため、各ビールを測定前に0.1 mol/L Tris-NO3 pH 7.2水溶液で1:10に希釈しました。サンプルを脱気する必要はありませんでした。脱気の有無にかかわらず、得られた結果は非常に類似していました。

得られたデータを検証するため、市販のL-乳酸アッセイキットを使用しました。光学実験はSPELEC装置とDropView SPELECソフトウェアを用いて実施しました。各ビールスタイルにおけるマトリックス効果を避けるため、光学キットでは異なるサンプル希釈が必要でした。サワービールは1:100、IPAは1:20、Al Debalu(ランビックビール)は1:50、バーレーワインは1:10に希釈しました。

電気化学的手法と光学的手法の両方で得られた結果が図3に示されています。

バーレーワインはその暗褐色がアッセイキットの測定波長(450 nm)と干渉したため、光学的アッセイキットでは正確に測定できませんでした。ビールの吸収と低い乳酸濃度の間にはトレードオフがあり、そのため測定に十分な感度が得られませんでした。この問題は、ビールをPVPP(ポリビニルポリピロリドン)で処理することで解決でき、これにより色が除去され、吸収を防ぐことができます。

両方の方法で得られたデータは非常に似ていることから、このプロトコルは、複雑な前処理や大型の光学機器を使用せずに、75秒以内にポータブルデバイスでビール中の乳酸を検出できる可能性を示しています。


結論

この研究では、ビール中の乳酸を検出するための電気化学的バイオセンサーが使われています。使用された電気化学的方法では、サンプルは0.1 mol/L Tris-NO3(pH 7.2)溶液で1:10に希釈するだけで済みます。簡単なアンペロメトリックアッセイを使用することで、前処理なしで75秒以内にビールサンプル中の乳酸量を測定することが可能です。得られた測定値は、従来のL-乳酸アッセイキットやポータブルでない光学機器で得られた値と類似しています。


参考文献

  1. Biscay, J.; Rama, E. C.; García, M. B. G.; et al. Enzymatic Sensor Using Mediator‐Screen‐Printed Carbon Electrodes. Electroanalysis 2011, 23 (1), 209–214. DOI:10.1002/elan.201000471

関連アプリケーション

AN-T-227 Determination of sodium lactate

AN-PAN-1057 Inline monitoring of fermentation processes

AN-NIR-093 Quality Control of fermentation processes

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